オジサンのよたよた話し


カドナの夜はふけて

カノーの町は、ナイジェリアでも比較的北に位置する街だ。旧市街には、腰から刀をさげ、真っ青なマントを着て、頭にターバンを巻いた男達が歩いている。狭い路地ですれ違う時には、刀に触れて切り捨てゴメンになってはたまらない。そんなことないと思うが、少々緊張した。しかし、刀をさげて、馬に乗った男達というのは、なかなか格好いいものである。この町で、古いトンボ玉でもみつからないかと思ったが、それは無理だった。トンボ玉の店は一杯あったのだが。まわりが銀化しているようなトンボ玉をみつけたら、私に下さい。

そんな時、制服を着た婦人警官から声をかけられた。交通整理をしていた可愛い婦人警官が、こちらに向かって歩いてきた。何か、いいがかりを付けに来たのかと身構えている私に、彼女の言葉を理解するには、ひと呼吸必要だった。「今晩、時間あいてない?。私と遊ばない?」。色っぽい目つきで話している相手が、制服を着た婦人警官でなかったら、私の答えも違っていたかも知れない。逮捕するのも、遊ぶのも、彼女の胸三寸である。冒険するには、ちょっとリスクが大きすぎる。しかし、ちょっと可愛くて惜しかった。

カノーには、麻雀のできる日本人が3人居た。空港に、日本人が着いたらしいという話しは、すぐに伝わったようだ。一人の商社マンが、麻雀ができますかと訪ねて来た。技術指導に来ていた他の2人の日本人も、仕事を休んでやってきた。「4人で麻雀ができる機会なんて、めったにないんですよ」という話しであった。何日かの休みが取れると、南に下ったところにあるカドナの町まで、麻雀に出かけるそうだ。それも、1年に2~3回しかないらしい。こんな街で麻雀が出来るとは思っていなかった。

私は、カノーからカドナの町まで南下した。

カドナの映画館は夜になると開く。板壁に囲まれただけで、空の見える映画館は、暗くなってからしか上映出来ない。切符売り場のまわりに点けられた3-4個の裸電球が、街の明かりのすべてのように思える。ザックリとした民俗衣装に、回教帽を被った男たちに比べて、女たちは、少しはおしゃれである。電球の明かりに、夜になると虫たちが集まってくるかのように、人間が引き寄せられてくる。

2階席を2枚買った。2階といっても、板壁で囲まれて、木の長椅子が並んでいるだけであるが、1階席には屋根が無いのに対し、2階席には屋根があるので、万一の雨でも大丈夫と言うわけである。しかし、サヘ-ルに位置する、こんな町に雨が降ることなんて、年に数回もあるわけではない。だから、2倍も値段がする2階席を買うなんて客は、よほどの事情がある人間だけだ。

その点で、私は事情のある人間だった。女性を連れていた。映画館の入口で、彼女は旦那を見つけたのだ。旦那も、この映画館へ来たというわけだ。ここしか、娯楽が無いのだから、夜、家を出て、やってくる遊び場は、この1軒の映画館か、友人の家しかない。旦那が1階席に入った。我々が2階席でも、真っ暗な野外映画のような場所では、絶対に顔は判らない。・・・そんなことはない。外人と人妻では目立たないはずががない。しかし、誰だって、トラブルを背負い込むよりは知らない顔で居る方が幸せなのだ。ちなみに、回教国での不倫は、石を投げて殺すというものである。女はハウザ族の女で、旦那は空軍兵士であった。兵隊はあちこちに女を作るので、女達も客を求めてさまようらしい。

空に星は見えなかった。サハラの砂が空を覆うハマターンの季節だった。

(知ってますか)
トンボ玉

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