オジサンのよたよた話し


反乱、新会社設立、そして・・・

金融業は、自由競争の時代に向かおうとしていたが、土地を担保にお金を貸すことに変わりはなかった。 預金者の金利も貸出し金利も、政府が定めた通りだから、何も考えなくても、差額分だけお金が儲かる仕組を政府が保証してくれていた。お客に土地を買わせる。その資金を貸しつける。土地の値段は右肩あがりだ。土地を担保に取れば、貸し付けたお金が焦げ付くことはない。お金を貸しつければ、金利が入る。銀行は貸付残高を増やすことだけ考えていた。場合によっては、土地の転売先までみつけてきて、確実に利益が出るようにしてくれた。土地の価格が毎日値上がりを続けるバブル時代を迎えていた。

9月3日、客先から呼び出しがかかった。本当にプロジェクトを完了できるのかと詰め寄られる。5月末以来既に3ヶ月が過ぎているのに、アウトプットが何も無いからだ。客先には隠しているが、こちらは、まだ組織作りをやっている段階だから、何も出せるわけがない。このままでは、私達より以前にD社が、この仕事に投入した部隊よりも小さい。仕事なら、どこにでも転がっている時代に、これだけの部隊を集めただけでも、精一杯なのだが、客先からも、この仕事を受けるのは無謀という声が聞こえてくると、絶対に大丈夫という自信がグラグラし始めるのを感じた。

まずは部隊を、元麻布に集めることにした。外人部隊を集められるだけ集める。まずは、頭数だけでも必要だ。質よりも、見せ掛けだけでも欲しかった。しかし、頭数を揃えても、オフィスの準備はできていない。会議室から総務の部屋まで、あらゆるところに人を押し込んで、他の社員から猛反発を受けることになった。
しかし、必死に集めても、用意できたのは、頭数勘定で80人月。ところが、手元の仕事を片づけるには、どう考えても本物のシステム技術者で200人月必要である

9月17日競合会社登場。彼等の方が先行している。一部の仕事は、そちらにまわっている。主導権を奪い返さないといけない。しかし、相手はコツコツと積上げてきた技術系の会社。こちらは、体制も出来ていない新興殴り込み部隊。まっとうに戦っては勝ち目がない。方法は1つ。客先の懐に、徹底的に深く飛び込むしかない。競合企業は、技術系企業を目指しているから、より多くの金融界にシステムを売り込むことを考えている。しかし、金融界というのは保守的な世界。自分の所と同じ技術が別の会社で使われることを極端に嫌う。一般企業なら、汎用パッケージを使う方が、コストが安いし機能もすぐれている。ところが、銀行は、自分専用システムに拘る業界だ。新興勢力が勝ち目をみつけるには、ここしかない。

9月20日ビッグチャンスを生かすために、新しい追加プロジェクトを企画提案。来年の年末を完成目標と設定。急激に会社を拡大させることで、金融システムの世界で陣取りをしようと考える。こうなると、今の会社で権力闘争をしたり、根回しをしていたのでは間に合わない。新会社を設立するしかないと決断する。

9月25日夜の麻布、社内反乱のシナリオ創りを業界実力者のMさんと描く。Mさんが個人事務所用に会社をもっている。この会社なら自由になる。この個人企業S社に外部資本を導入して、資本金を増額する。次に、今のプロジェクトメンバーを、出向という形でS社に移籍する。現在の会社も、Mさんからの要請なら逆らえない。そして、S社の社名と定款を変えてシステム会社に変貌させる。これなら、現在の会社から完全に独立した新会社になる。新会社の役員の人選も終えたのが、午前2時頃であった。あと1週間以内に、今の会社のオフィスではパンクするのだ。

Mさんは、たった1日で、新会社の資本金出資者を揃えた。一部上場企業の役員からも、新会社の役員に加わると返事がもらえた。優秀なSEのリクルートも始まった。秘書もみつかった。昼に紹介されたばかりの秘書は、夜になる前には、私の仕事を始めていた。すべてがフル回転で動き始めた。数日後には、新会社が稼動を始め、急激に拡大して行った。

誰もが未来は明るいと信じていた。バブルなどという言葉は、誰も知らなかった。東京の土地の値段で、アメリカ全土が買えることに疑問を持つこともなかった。

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